完全なる静寂の中に、ピシッという音が響く。
「貫入(かんにゅう)」と呼ばれるそのひび割れは、
焼成後の冷却過程で生まれる、土と釉薬の収縮の差。
それは傷ではなく、器が呼吸をした証。
長い歳月を経て、その模様はより深く、
味わい深い景色へと育っていきます。
光を吸い込むような深い黒、あるいは鈍く光る青銅の色。
茶室の床の間に置かれた一輪の香炉は、
その場の空気を一変させる力を持っています。
派手な装飾を削ぎ落とし、形そのものの力強さを追求した造形。
それは「わび・さび」の精神を体現し、
見る者の内側に静かな問いを投げかけます。
仄かな青みが木台の温もりと響き合い、
三足の均衡が静かな緊張を生む。
香の気配を留める、控えめな器です。
柔らかな青磁の釉が透かしの肌に落ち、
光が格子を縫って器の内を行き交う。
華やかさを抑えた造形が、静かな気配を残します。
雨上がりの空のような、澄み渡る青。
宋代の皇帝が求めたその色は、現代の技術でも再現が難しいとされる至高の色です。
手取りの重み、口当たりの滑らかさ。
茶を喫するという行為を、芸術の域へと高めてくれる一碗です。
淡い釉色に貫入が静かに走り、
器の縁にやわらかな陰影が生まれます。
手に取るたび、景色が少しずつ深まります。
荒い土の粒子、指の跡、炎の走り。
名もなき職人が日常のために作った器には、
作為のない美しさが宿っています。
野の花を一輪生けるだけで完成する世界。
それは、私たちの暮らしに大地の温もりを
取り戻させてくれます。